超短編:「ランカスター城にて」

「ああ──」


 と、女王はばつがわるそうな表情で、一同を省み、アルヴァレスの方へ半歩体を開いた。

「皆にも紹介します。此方の騎士殿が、グラスミアの郷下で、帝国軍の暴虐から私を救い出してくれた勇者です。彼は私の為に乱刃を冒して血路を斬り開いてくれたのです」

 そのことばで、広間に集う騎士らは、まだ見ぬ白騎士の武勇に嗟嘆した。

「飛箭が降り注ぐ中、彼は左手に私を護り、右手に剣を揮い、雷霆で一撃するように幾多のフランドル聖騎士を討ち退け、群がる暴兵をちぎっては投げちぎっては投げ…」

 女王は手振りを交え、迫力をこめて白騎士の活躍を説明しはじめた。
 女王の物語りは決して下手ではなかったので、一同はその都度、驚嘆したり拍手をしたりと、大いに盛り上がった。

 ──一方、話題の白騎士の方は、唖然とした顔で女王を眺めている。

 少なくとも彼の記憶とは、まるで話が違うからだ。
 そもそも女王はウィンダミア湖畔に至る間まで、気絶をしていたのではなかったか。
 しかしアルヴァレスが、物言いたげに女王の美しい貌へ視線を投げかけるたび、女王は怖い顔をして白騎士を黙らせるのである。

   
 (第一話 ランカスター城 より)

口絵:三木ロック様